アロマな君に恋をして

知り合いのやってるいい店がある、そう言って前をスタスタ歩き始めてしまうオーナー。


「行きません! 私!」


その背中にハッキリ意思表示をしたのに、振り返った彼はこちらの言い分なんか完全無視で。


「そこ、ボルシチが美味しい店なんだ。早くおいで、僕も寒いんだから」


私を手招きして、寒さを主張したいのか大袈裟に肩をすくめてみせる。

あぁ〜もう!

お人好しと言われればばそれまでだけど、私はこういう変なところで律儀なのだ。

このまま私がごねてオーナーに風邪でも引かせたら悪いだなんて思ってしまって、小走りで彼の元へ駆け寄った。


「……すぐに帰りますからね」


釘を刺すようにオーナーを睨んだ私を、彼はクスッと笑う。


「退屈はさせないよ。きみに見せたいものもあるし」

「見せたいもの……?」

「ああ。食事の後で見せるよ」

「そ、それじゃすぐ帰れないじゃないですか!」

「はは」


はは、じゃなーい!

駄目だ、この人のマイペースには付き合いきれない。


「私、やっぱり帰ります!」


パッとその場から離れようとしたのに、咄嗟に腕を掴まれてそれは叶わなかった。


「頼む……話を聞くだけでいいから」


見たことのない切実な表情で私を見る彼の誘いを、私は断ることができなかった。


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