アロマな君に恋をして
「……大丈夫?」
「……けほっ! 平気……です」
「炭酸でむせるなんて、うちのセリと同じだな」
「セリ……?」
オーナーは私の質問に答えず、赤ワインが入ったグラスを傾ける。
その横顔はいつもの自信満々な彼とは違う、どこか憂いを帯びたもので……相手はあのオーナーだと言うのに、何故か胸がきゅっと締め付けられる。
「セリは昔から病弱でね。でも医者も薬も嫌いで、仕方がないから効果はあまり期待できないだろうと思いながらも、アロマテラピーに頼ったんだ。
でも、彼女の体にはそれが合っていたらしい。どんどん元気になって、笑顔も増えていった」
セリって……誰のことなんだろう。
わからないけど、きっとオーナーにとって大切な人なんだろうということだけは、その昔を懐かしむような話し方から窺えた。
「海外に住み初めてからも、最初の頃のセリは元気だった。でも、あることをきっかけにふさぎ込んで、また体調を崩してしまってね……」
オーナーのグラスが空になった。
彼の目が充血しているように見えるのは、酔いのせいなのか、それとも……
「セリ……芹香は僕の娘だ。あの子の母親と離婚してからセリはすっかり元気をなくしてしまった。
あの子には母親が必要なんだ。僕はきみに、その役割を担ってほしいと思っている」