アロマな君に恋をして

「はは、おや……?」


突然すぎる言葉に、私はそう返すのが精一杯だった。

オーナーに娘がいるってことだけでもものすごい衝撃なのに、私に母親の役割を、だなんて……


「真剣に考えてみてくれないか?」

「考えるも何も……無理です。だいたいセリちゃんだって、見ず知らずの女性がいきなり現れたって嫌がるだけだと思うんですけど……」

「それなら問題ない。きみはセリが新しい母親に求める条件をすべてクリアしている」

「……なんですか、条件って」


私がそう尋ねたところで、お店のマスターが湯気の立つ器を二つ持って、厨房から出てきた。

その美味しそうな赤ワインと牛肉の香りに誘われて、私のお腹がほんの少しだけ鳴った。

オーナーに聞こえてたら恥ずかしい……


「……話は食事の後の方がよさそうだな」

「う……ばれてましたか」

「冷めないうちに食べた方がいい。本当に美味いんだから」


そうだよね、すぐ食べないと作った人にも失礼だし……私はスプーンを片手にお皿を覗く。

綺麗な赤いスープにたっぷりのお肉と野菜。その上にサワークリームが乗せてあって、ハーブも散らしてある。


「フェンネル……?」

「いや、これはディルだ。フェンネルより爽やかで少しほろ苦い」

「へえ……」


ああ、やっぱりハーブの知識に関しては私ってまだまだだな……

そんなことを思いながら、スープを一口すくって食べた。


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