アロマな君に恋をして
「……美味しいです」
「だから言っただろ? 体も温まるしこの時期にぴったりなんだ」
オーナーはそう言って、嬉しそうにボルシチを食べ進めていた。
なんていうか……一緒に食事をすると、警戒心がちょっと緩む。
さっきの話を聞いたせいもあるのかもしれないけど、オーナーも意外と普通の人かもしれない、なんて思ったりして。
食べている間は二人とも黙っていたけど、その沈黙は特に気になるものでもなくて。
ごちそうさまでした、と言った頃にはだいぶくつろいだ気持ちになっている自分がいた。
だけどそれは、ほんのわずかな時間だった。
「――さて、本題だけど」
オーナーがそう切り出すと、私たちを包む空気がぴりっとしたものに変わった気がした。
「こう言ったら怒るかもしれないけど……イギリス行きの件は、セリのためでもあるんだ。一度向こうの専門家に見てもらいたいし、日本で扱ってない精油も手に入るし。
でも、海外で母親を失ったセリは、もう日本からあまり出たくないらしい。
もし行くなら条件として、セリの認めた新しい母親一緒に連れて行くこと……それを約束させられてる」
条件……そういえばさっきもそんな話を。
セリちゃんが新しい母親に求める条件っていったいどんなものなんだろう?
オーナーは私の心を読んだみたいに、その答えを語った。
「――パパより若くて可愛いこと。私を大切にしてくれること。アロマに詳しいこと。そして……
パパがちゃんと恋した人であること。……これが、セリの求める新しい母親像だよ」