アロマな君に恋をして
「……帰るか。積もったら厄介だし」
よかった……オーナーと過ごすのは思ったよりも短い時間で済みそう。
私は素直に頷き、席を立ちあがる。
私は自分の分の支払いはしようとしたのに、オーナーが勝手に二人分払ってしまった。
憮然としたままお店を出る彼の背中を追い、扉が開くととてつもない寒さだった。
狭い路地を北風が駆け抜けて、頭や肩にはどんどん雪が落ちてくる。
「これは参ったな……とりあえず通りに出てタクシーを拾おう」
傘もないし、さすがに歩いては帰りたくないなと私も思っていたのでとりあえず頷くと、何故か彼は私の前に自分の手を差し出す。
「……なんですか?」
「寒いだろ」
まさか、つなげって意味……?
「べ、別に大丈夫です!」
「無理するなよ。鼻の頭、真っ赤」
「ちょっと、勝手に……!」
強引に引かれた手はオーナーの手にしっかり包まれて、振りほどこうとしても力が強すぎてそれができない。
「オーナー!」
抗議の声を上げても、完全に無視。
そのまま広い通りに引っ張られて行くと、彼はタクシーを探して辺りを見渡していた。