アロマな君に恋をして
「どちらさまですかー?」
その、甘く間延びしたような女性の声を聞いた瞬間、私の胸に嫌な予感が広がった。
確かに彼女のほうが先にあの場所を去ったけど、だからってどうしてここに……
けれど逃げ出すこともできなくて、扉が開くのをただ見ているしかなかった。
さっき街中で見た生脚……それがブーツを脱いでより細く長くなり、私の前に立ちはだかる。
脱いでいたのはブーツだけでなかった。
彼女はパーカーを羽織っていたけど、中途半端にしかファスナーを上げていなくて……
そこから覗くのは、豊満な胸の谷間と派手なレースの下着。
よく見れば、パーカーは男物。きっと……麦くんの。
「あれ? 麦に何か用ですか? ……別れたのに」
ぐさりと胸の奥にその言葉が突き刺さる。
本当は別れてなんかいないとこの状況で言えない自分を、決して臆病すぎるとは思わない。
だって、無理だよ……誤解をさせたのは自分のせいだし、それに目の前の若くて可愛くてセクシーな彼女には、勝てる気が全くしない。
私が何も言えずにその場を立ち去ろうとすると、彼女はなおも言葉のナイフを振りかざした。
「中で待ちますか? 今麦シャワー浴びてるんですけど、そろそろ出ると思いますよ」
「……………っ」