アロマな君に恋をして
私は聞こえないふりをして、そのまま彼女に背を向けた。
――やだ。やだ……やだよ。
想像したくないのに、麦くんと歩未さんが重なり合う生々しい映像を勝手に脳が作り出す。
アパートから出ると雪は止んでいた。でも……寒くてたまらない。
「ふ……う、えっ」
こんな凍えてしまいそうな夜に外を歩いている人なんていなくて、それをいいことに私は泣きながら帰った。
私……また独りになっちゃた……また大好きな人を失っちゃった。
それでも恋なんかしなければよかったと簡単には思えない。
だって、麦くんとの時間はとても優しくて、楽しくて、私に元気をくれて……
やっと、素直になれるようになってきたのに。
そんな自分が嫌いじゃなかったのに。
彼が変えてくれた素直な私は、またどこかへ消えてなくなりそう……
のろのろと水たまりも避けずに歩いているとブーツの中に水が入り込んできた。
冷たくて気持ち悪くて……あまりにみじめでまた泣けてくる。
家に着くと無心でシャワーを浴び、髪をちゃんと乾かすこともせずにベッドに倒れ込んだ。
携帯が、何度か鳴っていた。
けれど誰からの着信なのか確認することもせずに、私は電源を落として無理矢理に眠った。
麦くんの夢を見ませんように……
明日の朝また泣きたくなるような、幸せな夢は見ませんようにと、それだけを祈りながら。