アロマな君に恋をして
「ずっと好きだったのに……麦は全然気づかないし、ずっとあの人のことしか見てなくて。
諦めようかとも思ったけど……無理なんだもん……」
首の後ろに彼女の腕が回された。
……女の子の匂いがする。アユが俺を好きだったなんて全然気が付かなかった。
でも、それを聞いても俺にとってアユはアユだ。
女友達として、好き。それ以上でもそれ以下でもない。
「アユ、ごめん。俺はアユのこと、特別な女の子として見れな――」
言い切る前に、唇を塞がれた。
なずなさんとは違う感触……それに嫌悪感を抱き、俺はアユの身体ごと自分から引きはがした。
「……ばか」
アユはそれだけ言うと、潤んだ瞳を隠すように立ち上がり、鞄と上着を引っ掴んで玄関に駆けて行く。
「アユ」
「……なに」
「寒いし暗いから気を付けて……あと……仕事、腐らず頑張れよな」
気持ちに応えられないから送ることはできない。
その代わりに、何か言わなきゃと思った。でもそれは余計な一言だったみたいで……
「あんな話、嘘だよ……そういう残酷な優しさ、もうやめてよね」
俺の方を振り返らずにそう言ったアユは、ブーツを履き終えると玄関を出て行った。
残酷な優しさ……俺はその意味がわからずに、しばらく立ち尽くしていた。