アロマな君に恋をして
翌日、俺は仕事中いつも鞄の中にしまっておくスマホを、バイブが鳴るように設定してエプロンのポケット突っ込んでいた。
店長に見つかったら怒られるかもしれない。
だけど朝になっても何も連絡してこないなずなさんのことが気になって、どうしても肌身離さず持っていたかったのだ。
暇さえあればカーキ色のエプロンのポケットに触れ、それが震えるのを期待していたけど……
時間だけが無情に過ぎて、お昼が近づいても一向に連絡の来る気配がなかった。
「――オイ麦」
小さくため息をついていた俺の元へ、店長がやってきた。
不機嫌そうな声。もしかして、スマホのことばれたかな?
「はい」
「お前に客だ」
店長の言葉は予想外で、でもすぐに“なずなさんかも”という期待が俺の胸に灯り、店の入り口の方へ目をやった。
……しかしそこには誰もいない。
「ちょっと、こっちです!」
すると怒ったような声がして、その出所に視線を落とすと、小学校低学年くらいの女の子が腰に手を当てて頬を膨らませていた。
「……店長、この子がお客さんですか?」
「ああ。どーしてもお前に言いたいことがあるんだと。お前、いつの間に隠し子なんて」
「お、俺の子じゃないですよ!」
助けを求めるようにその子を見ると、フォローしてくれるどころか大きな目でじっと俺を睨んでいる。
一体誰なんだこの子……
どことなく雰囲気が誰かに似ているような気はするけど……