アロマな君に恋をして
初対面の大人を前に、物怖じすることなく発言できる堂々とした雰囲気……
それに、なずなさんはパパと結婚するから別れろって……この子もしかして。
「きみの苗字って……徳永?」
「そうです、徳永芹香です。でもパパが人に聞く前にまず自分から名乗れって」
……まずは自分から名乗れ、ね。あの人自ら店に来たとき、それは実践されてなかった気がするけど。
でもまぁその通りだと思うので、俺は素直に謝った。
「ああ……ごめん、俺は大久保麦」
「知ってます。……パパの自信を初めて奪った人だから」
そう言って芹香ちゃんは大きな目を縁取る長いまつ毛を伏せた。
目は母親似なのかな……徳永さんのあの切れ長の目とは少し違う。
それにしても、自信を奪ったって……?
「パパが家で俺のこと何か話していたの?」
「……はい。パパがママになって欲しい人は、パパのこと好きになってくれそうにないって。まだ諦めないけど、ライバルが手強いから無理かもしれないって、弱気になってました。
……なずなと麦、二人とも植物だから相性がいいのかななんてつまらない冗談まで言ってて、あんなパパ初めて見ました。でも……」
芹香ちゃんがぎゅっと唇を噛んで、俺を睨んだ。
泣きそうなのを我慢したような表情に、俺の胸がちくちくと疼き出す。
徳永さんが自信をなくそうが俺には何の関係もないけど、芹香ちゃんが母親を求める気持ちは痛いほどにわかってしまう。
……俺もずっと寂しかったから。
仕方のないことだとわかっても、いつも母親が恋しかったから。