アロマな君に恋をして
「ここにはアロマ器具はないんですか?」
さっきまで泣いてたとは思えないさっぱりとした表情で、芹香ちゃんが聞いた。
俺はうーんと辺りを見回してから、口を開く。
「お店の方にディフューザーがあるよ。持ってこようか?」
「お願いします。たくさん話したらちょっと疲れちゃって……オイルは持ってるから大丈夫です」
肩から下げていた小さなショルダーバッグからマンダリンの精油を取り出した芹香ちゃん。
さすがアロマショップのオーナーの娘だなぁなんて思いながら部屋を後にし、店の方へ行くと店長に怪訝な顔をされた。
「……あの子は?」
「まだ裏にいます。芳香浴したいみたいなんで、ちょっとこれ借りていきますね」
コンセントを抜いて、大き目のディフューザーを持ち上げると俺はまた芹香ちゃんの元へと向かう。
さっき何もしてあげられなかったから、少しくらいは彼女の役に立ちたい。
「芹香ちゃん、持ってきた…………よ」
そう思っていたのに、扉の向こうに芹香ちゃんの姿はなかった。
代わりに残っていたのは、柑橘系の甘い香りと……テーブルの上に小さなメモ。
“――セリ、なずなさんのことはあきらめます”
まだ小学校一年か二年だと思うのに、その字はきっちり丁寧に書いてあった。
それが逆に彼女の強がりを表しているように感じられて、俺はもう少し話を聞いてあげれば良かったと後悔した。
聞いたって、どうもしてあげられないかもしれないけど……
それでも芹香ちゃんの寂しさに、寄り添うことはできるから。