アロマな君に恋をして
箸を置いて聞き返した私の顔を見ずに、オーナーは話を続ける。
「昨夜……きみに殴られて、少し頭を冷やしたんだ。それであまりにきみの気持ちを無視したやり方だったかもと、後悔して……
もしきみが彼氏と本当にうまくいってるのなら、これ以上深追いするのは止めようかとも思った」
どこか頼りない目をして、オーナーが私を見つめた。
あのあと彼がそんなことを考えていたなんて、思いもしなかった。どうせまたほとぼりが冷めた頃に迫ってくるのだろうとばかり……
でも、そう思ったのなら今日どうしてここに?
「だからセリにも、“パパが好きな人はパパのことを好きになってくれそうにない”と話しておいた。納得してくれたかどうかはわからないけどね。
……で、今日の朝、きみに今までのことを謝ろうと店に出向いたら、風邪で休んでるって緒方さんに聞いて……もしかして昨夜彼氏が不在で、あの雪の中歩いて家に帰ったりしたのかと思ったらいてもたってもいられなくなって」
「……それで、家の場所を緒方さんに聞いたんですか?」
「ああ」
オーナーがここへ来た理由が予想していたものと全く違って、私は戸惑っていた。
私が風邪を引いたからって、それが自分のせいかもしれないと罪悪感に苛まれるような人には見えないのに……
「――でも、状況が変わった」
ガタン、と椅子を引く音がして、気が付けばオーナーは私の向かい側に座っていた。
いきなり距離が縮んだことにドキンと胸が跳ね、目を逸らすとテーブルの上に出ていた手をぎゅっと握られた。
「もう遠慮はしない。前にも言ったけど、二人の絆に綻びが生じた時を狙う……それが恋愛の定石だ」
「オーナー……」
どうしたらいいのかわからない。
握られた手が、熱い。
心も体も弱っているところを狙ってくるのはズルいと思う。……それが狙いだから当たり前なのだろうけど、いつもより揺らいでしまっている自分が居る――……