アロマな君に恋をして
私の目はオーナーを素通りして、苦しげな顔をしてこちらを見ている麦くんに釘付けになった。
でも、心に浮かんだのは“来てくれて嬉しい”とかそんな素直な感情ではなく……
もっと暗く冷たい、どろどろとしたものだった。
「……こんなところで何してるの?」
自分でも驚くほど、低い声が喉から押し出された。
麦くんは戸惑ったように首を傾げている。
「何って……お店に行ったらなずなさんが風邪で休んでるって聞いたから、心配で……昨日から電話にも出てくれないし」
「電話に出なかったのは、あなたが歩未さんと居たことを知っていたからよ……?」
麦くんの顔色が変わった。
でも、“浮気がばれた”という反応ではなく、私がなぜそのことを知っているのか、心底わからないようだった。
「私と別れたかったんなら、そう言えばいいのに……」
心にもない一言が、口をついて出た。
「なずなさん、何言って……」
「歩未さん、ほとんど下着姿みたいな恰好であなたの部屋に居た! 疑うなって言う方が無理でしょう? 女友達とか言いながら、前からそういうことしてたんじゃないの?」
言葉を重ねる度に、ちくんちくんと胸に何かが刺さって行くのを感じていた。
でももう後戻りはできなかった。私はゆうべたくさん傷ついたのだと、彼に訴えたかった。
興奮しすぎた自分をなだめるようにゆっくり息を吐き出して麦くんを見ると、彼の方こそ傷ついたような瞳をしていて、私の胸にまた新たな棘がちくりと刺さった。