アロマな君に恋をして
「それ、本気で言ってるんですか……?」
――本気なわけがない。
だけどそれをこちらから言わなくても察して欲しかったから、私はただ黙って唇を噛んだ。
「じゃあ俺も言わせてもらいますけど……この人と手を繋いでいたって言うのはなんなんですか?」
この人、と言って麦くんが睨んだのは、廊下の壁に背中をもたれさせて私たちのやりとりを静観していたオーナーだった。
その言い方は彼には珍しく喧嘩腰で、さっき歩未さんとの仲を疑うような発言をした私に対して怒っているのだと言うことが窺えた。
……もしも、もしも昨日歩未さんと何もなかったなら、麦くんが一番にやるべきことは私を安心させてくれることじゃないのかな。
それよりも彼女を庇うような素振りさえ見える今の彼を、私はもう信じられないと思った。
「……付き合う、ことに、したから」
私はたった今思いついた浅はかな嘘を、震える声で麦くんに言った。
相変わらず黙ったままだったオーナーが、一瞬私の方を見たのがわかった。
「……嘘です」
絞り出すように言った麦くん。私は首を横に振って、声を張り上げる。
「嘘じゃない……! だからあなたと私はもう関係がないわ。もう帰って? こんなところを見たら歩未さんも怒るんじゃない?」