アロマな君に恋をして
――ああもう、何もかも終わりだ。
私の言葉でみるみる表情を強張らせる麦くんを見ていたら、それがわかった。
気まずい沈黙が続き、やがて力を失くしたように私に背を向けた麦くんが、ぽつりと言った。
「……じゃあ、なずなさんは芹香ちゃんのお母さんになるんですね」
どうして、麦くんがセリちゃんのことを……?
オーナーも私と同じ疑問を抱いたようで、怪訝な顔をして麦くんの背中を見つめていた。
「あの子のことを考えたら、それが一番いいのかもしれませんね。まだまだ母親が恋しい年頃でしょうし……それじゃ、俺はこれで」
引き留めたい気持ちは、わずかにあった。
でもそれをぐっと堪えて麦くんの背中を見送った私は、玄関の扉が閉まるのと同時にその場に膝から崩れ落ちた。
「う……、うわぁぁぁ」
結局。私と麦くんが壊れたのは、オーナーのせいでも歩未さんのせいでもない。
私たちがお互いを信じられなかったからいけないんだ。
素直になれずに彼を責めるようなことばかり言ってしまったことが、今さら悔やまれて涙に変わる。
こんな別れ方しかできない、可愛げのない女でごめんなさい……
あなたは私をとても大切にしてくれたのに、どうして私は……
「――本当に、不器用だなきみは」
私がさめざめと泣き続けていると、不意に呆れたようなオーナーの声が頭上から降ってきた。