アロマな君に恋をして
「できるだけ早く発てるよう手配をしよう。きみの決意が揺らがないうちに」
「……はい」
髪に優しくキスをされると、私の瞳から涙がこぼれた。
自分の情けなさのせいなのか。
隣に座るオーナーを愛しく感じ始めているのか。
できれば後者であればいいと思いながら、私はその涙をオーナーに気づかれないようにそっと拭った。
「……今日は疲れただろう。そろそろ帰るよ」
「え……」
思わず頼りない表情をした私を、オーナーは困ったように見つめる。
「家でセリが待ってるし……それに、このままここに居たらきみが病人だってことを忘れてまた何かしてしまいそうだから」
そっか……セリちゃん。
私、これから彼女の母親になるかもしれないのに、そんなことも気遣えないなんて。
自己嫌悪でうつむく私の頭に、オーナーはそっと手を置いた。
「考えすぎるのはきみの悪い癖だ。今日はとにかく休んで、早く元気な顔を見せてくれ」
「……はい」
オーナーは部屋で休んでいろと言ったけれど、私は玄関まで彼を見送った。
これからこの人をちゃんと好きになろうと、何度も自分に言い聞かせながら。