アロマな君に恋をして

「……まだ何かあるの?」


あからさまな迷惑顔で彼にそう言った瞬間、私の鞄の中で携帯の着信音が鳴り出した。

よかった……天の助け。

私は彼の手を振り払い、出入り口の扉を押しながら電話に出た。

相手は緒方さんで、話の内容は会社を早退してきた旦那さんが思いの外元気だったことへの文句だった。

私は歩きながら、緒方さんの話しに相づちを打つ。


「あはは、良かったじゃないですかズル休みできて」

『良くないわよ!元気なくせにちょっと喉が痛いとか、食欲ないけどあれは食べたいとか、うるさくて敵わないわ。やっぱりなずなちゃんと遊んでればよかったー』


旦那さん、甘えたいんだなぁ。

私は何度か会ったことのある緒方さんの夫の体育会系の大きな体を思い出し、クスッと笑ってしまった。

けれど直後に、その笑顔が凍りつく事件が起きた。


「なずなさん……」


電話を当てている方と逆の耳に、さっき振り切ったはずのしつこい熊の声が聞こえたのだ。


「な……っ!」


不吉すぎる予感に振り向くと、声の主はやはりそこに立っていた。

周りの景色を確認すると、雑貨屋からはもう50メートルくらい離れている。

つまり、ずっとついて来てたってこと……!?


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