アロマな君に恋をして
「お前がここに勤めることが決まってすぐ、電話がかかってきたんだ。“麦には内緒で”って。それで聞いたんだよ。お前は人に優しくするばっかりで、自分が辛いときは誰にも何も言わないって」
店長はエプロンの腰の紐に引っかけていた掃除用のハタキで、俺の頭を軽くはたいた。
「別に男同士で悩み相談も何もないだろうが、あのいけ好かない男が店に訪ねてきたときのお前の怒りようを俺は見てるからな……
そこまで本気だった女とダメになるのは、さすがにつらいだろうと思ったわけだ。お節介だな、俺」
「店長……」
俺が女子だったなら、今すぐ店長の胸に飛び込みたいと思った。
そういう趣味はないから、実際はしないけど。
「……やっぱり優しいですね、店長」
「当たり前だ。優しい心を持たない奴に雑貨は売れない。……で、どうすんだ? 明日」
俺は少し考えてから、顔を上げた。
最初はお店に出てもいいかなと思ったけど、店長と話していたら行きたい場所ができた。
しばらく会いに行ってなかったし、年内に一度顔を見ておきたい。
「――やっぱりお休みもらっていいですか? ばあちゃんの所に行こうと思うので」