アロマな君に恋をして
家の最寄りの駅から電車で三十分、それから五分ほど歩いたところにばあちゃんの暮らす老人ホームはある。
見た目は普通のマンションみたいにシンプル。クリーム色の外壁が優しい雰囲気を醸し出している三階建てのビルだ。
受付の所で名前と連絡先を書いて、手にアルコール消毒をしてから中に入った。
ばあちゃんは午後のこの時間は自分の部屋にいるだろうと、女性の職員さんが部屋まで案内してくれた。
「大久保さん、お孫さんが来てくれましたよ」
少し耳の遠いばあちゃんのために、職員さんは大きな声で言いながら部屋に入って行った。
日当たりのよい窓際で椅子に座り、静かに本を読んでいたばあちゃんが、こちらを向いて目を細めた。
「おお、よく来たね、麦」
「うん。相変わらず元気そうだね」
俺たちが無事に対面を果たしたのを確認すると、職員さんは部屋を去り、俺はベッドに腰を下ろした。
ばあちゃんは本にしおりを挟んでかけていた老眼鏡を外すと、まじまじと俺の顔を見つめてきた。
「来てくれて嬉しいけどさ、あんた今日クリスマスだってのに暇なのか?」
……いきなり痛いところ突いてくるな。
俺は軽く笑って、本当のことを言った。
「暇じゃない予定だったんだけど……つい最近、彼女とだめになっちゃって」
「……なんで」