アロマな君に恋をして
扉ののぞき穴から外を確認したとき、一瞬誰もいないように見えた。
けれどよくよく見てみると、小さな頭がそこに映っているのに気付き、俺は慌てて扉を開けたのだった。
「どうして、きみがここに……」
少し不機嫌そうな顔でそこに立っていたのは、お正月らしく晴れ着姿の芹香ちゃんだった。
「どうして……はこっちの台詞です! なんでなずなさんと別れたんですか?」
「ちょ、ちょっと待って。とりあえず中に……」
芹香ちゃんの声が思った以上に通路に響き渡ったので、俺は近所迷惑にならないよう彼女を家に招き入れた。
「何か飲む?」
「……いえ、お構いなく。それより質問に答えてください」
廊下からリビングに入るなり、そう言った芹香ちゃんに睨まれた。
質問っていうのは、さっきの……“なんでなずなさんと別れたのか”だよな……
俺は少し考えてから、芹香ちゃんの目線に合うよう腰を屈めた。
そしてできるだけ感情が滲まないよう、注意しながら口を開く。
「……なずなさんが僕よりきみのパパを選んだ。ただ、それだけだよ」
自分で言ってて自分で傷つくのがわかった。
そう、それだけなんだ。だからいい加減忘れなきゃいけないのに……