アロマな君に恋をして
『なずなちゃん!どーしたの?』
携帯から漏れる緒方さんの声に気づき、私はパッと携帯を後ろ手に隠した。
けれど時すでに遅し……にんまりと笑みを深めた彼が、満足げに言う。
「やっぱり、なずなさんって言うんだ」
「あなたねぇ、プライバシーの侵害もいいところよ!!」
「俺は、大久保麦(おおくぼむぎ)って言います」
「聞いてない!……っていうか聞きなさい!人の話を!!」
あぁ……血圧上がりそう。
いくらアラサーだからって、まだ高血圧には早いわよ……
熱くなったおでこに手を当てて冷静を取り戻そうとする私に、彼はなおも話し続ける。
「明日はお店にいますか?」
「……答えたくありません」
「んー……ま、いいや。とりあえず明日、お店に行きますね。じゃあ、俺はこれで。店番中だったんで」
店番中に店をほったらかして何やってるのよ……と怒る気力ももうなかった。
とりあえず、やっと解放される……
私は全く急ぐ様子のない彼の背中を、恨めしげに見送る。
その途中で右手に持っている携帯がまだ切れていないことに気がついた私は、さらなる疲労がこの先待っていることを確信して肩を落とし、携帯を耳に当てたのだった。