アロマな君に恋をして
「……来月にはもう、イギリス行きが決まってるんだよ? 麦くんは本当にそれでいいの?」
どうして芹香ちゃんはこんなに一生懸命になってくれるんだろう。
自分に新しいお母さんができるチャンスなのに、俺を応援するようなことばかり……
気持ちはうれしいけど、もう放っておいてほしいというのが正直なところだ。
「いいんだよ……それがなずなさんの幸せなんだから」
「本当にそう思ってるの?」
「……うん」
芹香ちゃんは不服そうに唇を尖らせ、やがて深いため息をついた。
「……がっかりです、麦くんには。なずなさんが本当にパパと結婚することになっても知らないから」
くるりと踵を返して部屋を出て行こうとする芹香ちゃん。
「待って、危ないから家まで送って行くよ」
小さな背中にそう声を掛けると、彼女はこちらを振り向かずに言う。
「結構です。それにうちにはパパとなずなさんがいるのに、そんなことして鉢合わせたりしたら気まずいに決まってるじゃないですか」
「……芹香ちゃん」
俺はそれ以上何も言うことができなかった。
芹香ちゃんの言うことはもっともだし、敬語の戻ってきた彼女はもう俺と話すことを拒絶しているようだったから……