アロマな君に恋をして
パタン、と静かに扉が閉まる音を聞いてから、俺は頭の中に小さな疑問を浮かべる。
ばあちゃんも、芹香ちゃんも、どうしてなずなさんが俺を突き放すのが本心じゃないと思うんだろう。
いくら他人にそう言われても、俺はこの目でなずなさんと徳永さんのキスシーンを見ているのだ。
親密そうな会話も聞いた。
「……もう、放っといてくれよ」
誰かが俺を勇気づけようとするたびに、逆にみじめな気持ちになっていく。
自暴自棄、とまではいかないけど、何も考えたくなくて投げやりになった俺は、寝室に引っ込むと今度こそふて寝を始めるのだった。
***
――店長の様子がおかしくなり始めたのは、一月も終わりに近づいていたころだ。
怖い顔なのはいつもだけど、眉間に刻む皺の数が増え、いつも何かの紙を眺めてため息ばかりついていた。
俺の中で未だなずなさんへの想いは消えてくれそうになかったけど、自分のことでいっぱいいっぱいだった状態からはなんとか脱したので、ある日の開店前、レジ台に頬杖をつき例の紙を眺めて難しい顔をする店長に、その理由を聞いてみた。
「店長、なんなんですか? その紙」
「……これか? これは……」
答えようとしたはずなのに、すぐに口をつぐんでしまった店長。
俺は品出しの途中だったけど、店長の居る方へ近づき背後からその紙を覗き込んだ。