アロマな君に恋をして
“式は二月の半ば。予算はいくらかかっても構わない。完成したら式当日、彼自身に会場まで持ってきてほしい”
俺が目にしたのは、そんな意味不明の走り書き。
結局メモを見ても意味が解らず首を傾げる俺に、店長が言う。
「……これは、お前への仕事の依頼だ」
「え?」
聞き返すと、店長が不意に店内の一角を指さした。
そこは数は少ないけれど俺のデザインした雑貨の置かれているスペースだ。
「こないだ、お前の休憩中にふらっと現れた客がお前のデザインするものを気に入ったと言って、あるものをお前に作って欲しいと頼んできた」
「あるものって?」
「リングピローだよ。結婚式の指輪交換で使う」
リングピロー。ああ、“式は二月の半ば”――っていうのは、結婚式の日取りのことか。
でも、それなら早く取り掛からないと……
「なんでもっと早く教えてくれないんですか! おめでたい席に間に合わなかったら大変じゃないですか」
店長の手からメモを奪い取り焦ったように言うと、店長は重々しい声で俺に聞いた。
「――お前、この依頼受けるつもりなのか?」
なんでそんなことを聞かれるのかわからない。
確かにこんな風にお客さんから直接何かを作ってくれと頼まれるのは初めてだけど、その人の大切な日をお祝いするものが作れるのは光栄なことだ。