アロマな君に恋をして
依頼主というのが誰なのか。
結婚式を挙げるのは誰と誰なのか。
それがはっきりと頭の中で像を結び、俺は言葉を失う。
店長は、知っていて俺に隠していたのだ。
一体、なんのために……?
「アイツ、どうやら根っからの悪人じゃないみたいだぞ」
不意に、店長が言った。
「……徳永さんのことですか?」
「あー、いや……依頼主の名前は言わない約束だ」
もう言ってるも同然なのに、店長は頭を掻いてしらばっくれる。
「とにかくだ、麦。一度受けた依頼は途中で投げ出すんじゃねーぞ。お前はきっちりリングピローを完成させて、それ持ってイギリスに行くんだ」
依頼主がわかると俺は急に不機嫌になり、低い声で呟く。
「…………嫌です」
だってそんなの……俺にとってはただの拷問じゃないか。
「なんでだ」
「なんでって……徳永さんのためにウエディングドレスを着るなずなさんの姿なんか見たくないに決まってるじゃないですか!!」
怒りをぶつける相手を間違っているとわかっていても、思わず店長に向けて声を荒げてしまった。
けれど店長は、薄く笑ってこう言った。
「……じゃあそれを、本人に言えよ」