アロマな君に恋をして
「本人……?」
「そう、“なずなさん”にだ」
「店長、何言って……」
……ばあちゃんといい芹香ちゃんといい、そして今度は店長まで。
みんなして俺をけしかけようとするのは何故なんだ?
店長が意地悪でそんなことを言うとは思えない。もちろん、他の二人だって……
「……もういい加減自分を殺すのはやめろよ。これが最後のチャンスだぞ」
「最後の、チャンス……」
俺は手の中にある地図に視線を落とす。
ロンドンまで行ってまた突き放されたら、俺は今度こそ立ち直れないと思う。
それでも行くべきなのか……?
「――ま、まだいくらか時間はある。ゆっくり考えろ。……これだけは言っておくが、俺はお前に幸せになって欲しくて言ってるんだからな」
そう言って俺の肩をぽん、と叩いた店長。
“俺の幸せ”……それって、これからどうなることなんだろう。
ロンドンに行って二人の結婚式を指をくわえて見ていること? そんなわけはない。
日本でひとり膝を抱えてなずなさんの幸せを祈ること? それも、違う。
できることなら俺がこの手で……なずなさんを幸せにしたい。
そう望むことは、いけないことじゃないのかな。
欲しいものを欲しいと、言ってもいいのかな。
これまで何もできなかった自分の手のひらを見つめながら胸の内でそう呟く。
最後のチャンス……それに賭けてみるのも、いいのかもしれない。
俺は目に見えないそれを掴み取るように、開いていた手をぎゅっと握りしめた。