アロマな君に恋をして

お正月休みが明けるとすぐ、お店では来月から私の代わりに働く人材を募集し、訪れた何人かの希望者を緒方さんが面接していた。


一月の終わりごろには無事一人の女性の採用が決まり、私はイギリス行きに向けての準備、そして英会話の勉強などを始めていた。


そんなある日のこと――。

仕事が終わると真っ直ぐ家に帰ろうとしていた私をオーナーが待っていて、夕食に誘われた。


「……セリちゃんはいいんですか?」


寒空の下を並んで歩きながらそう聞くと、彼は立ち止まって進行方向を見据えながら言う。


「今日は、いいんだ。セリは実家に預けた」

「実家に? どうして……」


オーナーは不思議そうにする私を、真剣な眼差しで見つめた。

そして私の冷たい手を取り、大きな手で包み込むように握る。



「……一晩中、きみと一緒にいたいから」



その言葉にどきりとしたのはときめきだと思いたかったけれど、それとは別のものであると直感でわかっていた。


以前感じた小さな違和感が、怖いくらいのスピードで膨らんでいく。


だけど、彼にすがろうと決めたのは自分じゃない……

卑怯な私に拒む権利なんてない。

それに、勇気を出してその腕に抱かれれば、何かが変わるかもしれない……


私はそう信じることにし、重なるあたたかな手をきゅっと強く握り返した。


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