アロマな君に恋をして

連れていかれたのは、有名ホテルの最上階にあるイタリアンだった。

オーナーは予約をしていたようで、案内されたのは一番眺めのよい窓際のテーブル席。

こんないいところに来るとは思っていなかったから、私は席について飲み物を注文し終えたオーナーに小声で抗議をした。


「……こういう場所に来るなら前もって教えて欲しかったです」


今日はたまたまジーンズを穿いていなかったからよかったものの、それでも周囲で上品に食事をするお客さんたちに比べたら、私はラフすぎる。


「別にその格好で変じゃないよ。それにホテルの最上階で食事なんて言ったら、今日の目的がきみにばれてしまいそうで嫌だったんだ」

「今日の目的……?」

「ま、それは乾杯のあとで」


オーナーは笑顔ではぐらかしたけれど、私はなんとなく気がついてきた。

窓の方を向けば思わず見とれる夜景。

そしてきっと高級なのであろうこのレストラン。

セリちゃんを実家に預けてまで、私と一緒にいたいと言ったのは……


「――食前酒でございます」


はっと我に帰ると、シャンパンがグラスに注がれていた。

立ち上る泡の向こうで、オーナーはすでにグラスを持っている。


< 213 / 253 >

この作品をシェア

pagetop