アロマな君に恋をして
「すいません、ぼうっとしてて」
私も慌てて華奢なグラスに手を伸ばし、二人で小さく音を立てて乾杯をした。
すぐに前菜が運ばれてきて、その色とりどりのお皿を見た私はおおげさに「綺麗ですね」なんて声を上げ、食事に集中する振りをする。
そんなことをしたって逃げられないとわかっているけど、決定的な一言を言われるのがなんとなく怖かった。
自分がちゃんと嬉しそうな顔をできるか、自信がなかった。
「英語の勉強は順調?」
「あ、はい。でも、現地の方たちの言葉をちゃんと聞き分けられるかどうかは……」
「まぁ、それは慣れだから、行けばなんとかなるさ」
ずっと、こんな風に当たり障りのない会話が続けばいいのに……
そう思っていたけど、もちろんそれだけで済むはずがなかった。
コースが進んでいき、ワインのお代わりを注文したオーナーが、不自然に咳払いをした。
「――さて」
ドクン、と心臓がいやな音を立てた。
ナプキンで口元を拭い、胸ポケットを探るオーナーを直視することができない。
視線を向けた先の夜景が憎らしいほど綺麗で、何故だか泣きたくなってくる。
きっと……私の心が綺麗ではないからだ。