アロマな君に恋をして

「小泉なずなさん」


そんな風に改めて名を呼ばれ、さすがに彼の顔を見ずにはいられなくなった。

ゆっくりと視線を向けると、さっきポケットから出したのであろう、私の思い描いていた通りの箱を手にしたオーナーが、私を淀みのない瞳で見ていた。



「言われることはわかっていると思うけど、やっぱりこういうことはきちんとしておかないと、と思って。

なずなさん。僕はこれからきみと一緒に生きていきたい。……結婚しよう」



そうして彼は小さな箱を差し出し、ふたを開けて私に指輪を見せる。

……大きなダイヤが眩しい。


シチュエーションは完璧。

台詞だってすごく素敵。

何より彼らしいやり方だと思う。

もしもテレビドラマを見ていて、今の私の状況と同じことが起きたら“いいなぁ”と思ったに違いない。


だけど今の私と来たら……

どうしてこんなに重たい心を引きずっているんだろう。

どうしてすぐに「うん」と言えないんだろう。


答えるのを延ばせば延ばすほど彼からの信用を失うに違いないのに、私はいつまでもうつむき返事をすることができずにいた。


しばらくすると、パコン、と指輪の箱が閉まった音がして、私は思わず顔を上げた。


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