アロマな君に恋をして
「――手を貸して?」
ああ、私はまた……
自分の意思はないのに、オーナーに流されようとしている。
おずおずと出した左手に、彼が器用に指輪をはめた。
きちんと返事をしていないのに、宝石だけ受け取る女って、最低……
オーナーは、こんな女でいいの……?
そんな私の不安定な心境を感じ取ったかのように、彼は指輪のはまった私の手を握る。
「――日本(ここ)を離れればきっと大丈夫。だから今は何も言わなくてもいい」
「オーナー……」
この人と一緒にいると、自分がどんどんやな女になっていく。
でも、もう後戻りできない。
どこで道を間違えたのかも忘れてしまった。
早く私が心からオーナーを好きになれればいいのにな……
「それ、そろそろやめないか?」
不意に言われて、私は我に返る。
「それ……?」
「“オーナー”って呼び方だよ。いつまでも仕事気分が抜けないだろ」
そういえば、付き合っていて、キスもしているのに不自然といえば不自然だ。
「徳永さん……?」
「それじゃ結婚したときややこしい。健吾さん、だ」
「い、いきなりそれは恥ずかしいです……」
「慣れだよ、慣れ。英語と同じ」
それは違うと思うけど……。
照れながらもぼそぼそ「健吾さん」と口に出した私に、彼はものすごく満足そうだった。