アロマな君に恋をして
「やっぱりそうなのね……なずなちゃんが仕事一筋になったのも、あの頃からだものね。
もうだいぶ時間が経ってるから、てっきり傷は癒えたのかと思ってたけど……」
「……私、そろそろお店戻ります」
「なずなちゃん……」
蓋をしていた記憶を引っ張り出されて、私はその場から逃げた。
緒方さんが私を心配してくれているのは痛いほどわかってる。
結婚の約束までしていた前の彼氏と別れた5年前、私は既にこのお店で働いていたし、その時のショックで長期間お店を休んだ私をクビにしないでいてくれたのは緒方さんだから。
その彼に未練があるとか、忘れられないとか、そんなんじゃないけれど、あの時の傷はやっぱり深かった。
恋なんて面倒なもの自分には必要ないと思うようになったのも、たぶんそのせい。
仕事は一生懸命やっていれば、私を裏切らない。だから、余計なことを考えないように毎日私は仕事に打ち込んでいるんだ……
気を取り直してお店に戻ると、ちょうどチリン、とドアの鈴が鳴った。
「いらっしゃいま――――」
せ、まで言えなかったのは、油断していた自分に腹が立ったからだ。
今日は裏で在庫整理をさせてもらうんだった……
目の前の彼はちゃんと、今日ここに来るって予告してたじゃない……