アロマな君に恋をして
結婚式……って、そんな急にできるものなの?
しかも、二人だけって……?
「向こうには教会がたくさんあるから、日曜や祝祭日じゃなければ大丈夫と聞いたことがある。
もちろん、ちゃんとした結婚式はまた改めてすることになるけど……ただ、誓いを立てたいんだ。誰にも邪魔されない場所で、必ずきみを幸せにすると」
「健吾さん……」
たぶん、彼は焦っているのだ。
私がいつまでも自分のものにならないから。
そんな切実さが、暗がりでも光りを失わない切れ長の瞳に滲んでいた。
「……わかり、ました」
それでこの人を安心させられるなら、結婚式くらい構わないと思った。
本来なら一生に一度の大切な出来事であるはずの結婚式に“くらい”を付けるなんて、私のものさしはいよいよ壊れ始めたみたいだ。
私がそんな自虐的な気持ちでいると、オーナーがぽつりと呟いた。
「しかしショックだな……ジャスミンの力を借りてもきみが落ちなかったのは」
「ジャスミン?」
「今日はお守り代わりにこれをつけてたんだ」
健吾さんがジャケットのポケットから出したのは、香水瓶。ラベルには、ジャスミンの文字。
ああ、それでさっき甘い香りが……
ジャスミンの香りには、催淫効果……性欲を高める効果があるから……
そんなものに頼らせてしまったことが心苦しく、けれど彼と別れるのは地獄で蜘蛛の糸を手放すようなものだと思えてしまい、私は曖昧に微笑むことしかできなかった。