アロマな君に恋をして

「――送別会?」

「そうよ、今までずっと一緒に頑張ってきたなずなちゃんと、半年間とはいえお別れなんだもの。
ぱあっと何か食べに行きましょう? もちろん私のおごりで」


その日の仕事終わりに、スタッフルームで緒方さんがそんな誘いをしてくれた。

他に予定はなかったし、一人だと悶々と思い悩んでしまいそうだったから、私はもちろん快くその誘いに乗った。



二人でのれんをくぐったのは、緒方さんいきつけの焼き鳥屋さん。

今までにも何度か連れてきてもらったことがあるけれど、他のお店では食べられないお肉の希少な部位が出てきたり、焼き鳥以外のメニューも凝っていたりして、私も大好きなお店だ。


カウンター席に並んで座り、とりあえずビールで乾杯。

お酒に強い緒方さんはそれをぐぐっと一気に飲み干し、私に満面の笑みを向けてきた。


「そうだ、おめでとう。婚約したのね、オーナーと」

「あ……はい、彼に聞いたんですか?」

「ええ、安心したわ。なずなちゃんの失恋を見るのは初めてじゃないから、またあの時みたいに仕事にも出て来られないようになっちゃったらどうしようって思ってたから」


……そうだよね。私は過去の失恋で緒方さんにすごく迷惑をかけたんだった。

今回そうならなかったのは、やっぱり健吾さんの存在があったから……だよね。


そんなことを考えながらぼんやりつくね串にかぶりついていると、緒方さんが聞く。


「お互いのご両親に挨拶は?」

「……それはまだ……」


いつかはしなきゃいけないことだろうけど、まだ結婚に対してイマイチ実感の湧かない私はそのイメージが上手くできない。

こんな気持ちで健吾さんのご両親に会ったら、すぐにぼろが出そうな気もする。


< 222 / 253 >

この作品をシェア

pagetop