アロマな君に恋をして
慌てて顔を隠すようにおしぼりで盾をつくると、緒方さんが怪訝な顔で聞いてきた。
「何してるの……?」
「え、ええとこれはその……」
どうやらこの行動は怪し過ぎるようだ。
そっとおしぼりをどけてオールバックの横顔を盗み見ると、とりあえず私の存在には気づいてないようだったから、ほっとしながらも極力緒方さんの方に身体を向けることにした。
けれど意識は彼の方に集中してしまって、勝手に連れの女性との会話を耳が拾ってしまう。
「――クリスマスの埋め合わせが焼き鳥ってどういうことよ」
「別にいいだろ。ここのは美味いんだから」
「せっかく久しぶりに会えたっていうのに、もっと落ち着いて話せる場所が良かった」
……彼女さん、なのかな。
前に麦くんの口から“店長には彼女が居ない”と聞いたことがあったような気がしたけど。
「お前、そういうことにこだわる女だったか? 俺はお前を信用してるから、クリスマスの約束も悪いと思いながらキャンセルできたし、今日もいつもの店で会えばいいと思ったんだが」
「……はいはい。そうやっていい気にさせるの得意よね。やっぱり私よりあっちが本命なんでしょ。クリスマスも彼のために仕事変わってあげちゃってさ……
なんだっけ……“むぎくん”?」
「ばか言え、俺はノーマルだ。ま、確かにアイツのことは可愛がってるが……」
まさか……偶然麦くんの話が出るなんて。
緒方さんも彼らの会話が聞こえたのか、ちらちらと彼らの方を見ながら小声で言う。
「今、麦くんって……」
私はそれには答えず、引き続き店長さんたちの会話に聞き耳を立てる。