アロマな君に恋をして
私は血が彼の服に付いてしまうのも構わず、必死でその体を押し戻す。
「どうしたんですか、急に……!」
そう言っていっそう暴れる私を、健吾さんは強引に抱き上げてソファの上に押し倒した。
そして瞳を細めて、私を愛しそうに見つめながら言う。
「これが最後の悪あがきだ……いやなら、ひっぱたいて」
最後……?
それに、悪あがきって……?
問いかけるように健吾さんを見上げても、彼は切なげに目を伏せてそのまま私にキスを落とすだけで。
それは段々と深くなり、同時に健吾さんの手が私の身体をゆっくり滑り降りて行く。
……プロポーズにちゃんと答えることもできなくて。
こうして求められた時に生まれるのは喜びよりも嫌悪感で。
彼が帰宅する前には別の男の人を思って涙を流して。
挙句、バレンタインのことも忘れていて。
私はいったい何がしたいの……?
今までずっと隠してきた本音が、いつの間にか本当に見えなくなっちゃったよ……
「……っ、く」
それでも健吾さんをひっぱたくことなんてできなくて、泣き声だけを漏らした私。
はだけた胸元に唇を寄せていた彼はそれを聞くと、ぴたりと動きを止めて床に落ちていた自分の上着を私の身体に掛けた。
「きみの気持ちはよくわかった。でも明日の結婚式は予定通り行う。……それが僕のやり方だ」
私は返事をせずに、健吾さんが部屋を出て行くのを耳だけで聞いていた。
明日になればもう、運命は動かせないんだ……
前々からわかっていたことなのに、そのことを考えると涙が止まらなくなった私はしばらく泣き続け、いつの間にかソファで眠ってしまっていた。