アロマな君に恋をして

近所の美容室から出張してくれたスタイリストさんは、浮かない顔でヘアメイクされている私にも優しくて、“結婚前って女は複雑な気分になるものよね”と、ゆっくりな英語で気さくに話しかけてくれていた。


だけど私のは、いわゆるマリッジブルーというものとはきっと違う。

もちろん彼女にそんな説明はしなかったけれど、いくら励まされても気分が浮上することはなかった。


そんな終始暗い私のメイクもほぼ仕上げの段階。

大きく開いたデコルテに、キラキラと輝くパウダーが乗せられていく。

そして見た目だけは一応花嫁らしくなったところで、この部屋の扉がノックされた。


……健吾さんが私を迎えに来たのかな?


「――どうぞ」


振り返り、扉を見つめる。するとひょこ、と顔を出したのはセリちゃんだった。

遠慮がちに入ってきた彼女は白と水色のふわふわしたドレスを着ていて、妖精のお姫様みたいだった。


「わぁ、すっごく可愛い。セリちゃんの方が主役みたいね」

「なずなさんこそ、すごくキレイです。……いいなぁ、お嫁さん」


いたずらっぽく笑って、スタイリストさんが持ってきてくれた椅子に腰かけたセリちゃん。


少しだけお化粧もしているらしくいつもより大人っぽいその姿が本当に可愛くて、私は不意に思いついた素朴な疑問を彼女に投げかけた。


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