アロマな君に恋をして

「あの、健吾さん、大事な話が……」


聖堂へ向かう通路の途中、私は光沢のあるシルバーのロングタキシードに身を包む健吾さんにそう言って声を掛けた。


「……なんとなく予想ができているから、後にしてくれないか?」

「え……?」

「ほら、もうすぐだから。つかまって」


無理矢理に腕を組まされ、そのまま聖堂の大きな扉の前まで連れて来られてしまった。

そしてベールを顔の前に下ろされ、静かな瞳で見つめられた。



「――本当に綺麗だ。あと数歩で手放さなければいけないのが惜しいよ」


「あと、数歩……?」



確かにこれから歩くのはバージンロードだけれど、家族を呼んでいない今日は、祭壇の前まで健吾さんと一緒に歩くことになっている。

だから手放すとか数歩とか、まるで父親みたいなことを言う彼の真意がよくわからない。


「……行こう」


健吾さんが一度扉を軽く叩くと、重々しい両開きの扉はゆっくりと全開になった。


壁の中ほどから天井近くまではめ込まれた色とりどりのステンドグラスから差し込む光が、私たちの歩く道を照らしている。

私はわけのわからぬまま健吾さんに引っ張られるようにして歩き出し、うつむきがちに辺りを見回す。


当たり前だけど、参列者はいない。聖歌隊や楽器を演奏する人もいない、静かな入場だ。


そしてただ一人私たちの証人になる神父さんの顔を見ようと初めて顔を上げて正面を見たとき……

私はドレスの裾を踏みつけて、転びそうになってしまった。


だって、だって……



「どうして……ここに……」



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