アロマな君に恋をして

祭壇の前に居るのは誰……? 

私、とうとう幻が見えるようになっちゃったの……?


状況が飲みこめず立ち尽くす私に、健吾さんは何でもないことのように言う。


「“新郎”が待ってる。早く行こう」

「しん、ろう……?」


彼も確かに健吾さんと似たタキシードは着ている。

幻……じゃないんだ。

でも、どうして?

どうしてここにいるの?


その顔がよく見たいのに、一歩一歩近づくたびに瞳にたまった涙が揺れて視界がぼやける。


ずっと逢いたかった。

もう二度と逢えないと思っていた。


ついに彼の目の前まで連れて来られて、健吾さんがそっと組んでいた腕を解いたときに……

私の目に溜まり続けていた涙が、次々こぼれた。

彼の方はどんな顔をしているのか、見ようと思っても、枯れることを知らない涙が邪魔をする。

そんな私に、健吾さんがハンカチを差し出しながら言った。


「さっき言ってた大事な話……今、聞かせてもらおうか」

「ふ、ぇ……っ?」


さっきって、いつ……?

大事な話って……

ハンカチを受け取り、涙を拭きながら必死で頭を回転させる。


「あ……」


思い出した。健吾さんに伝えなきゃならないこと。


なんでここにいるのかはわからないけど、でも、もう一度彼と向き合うためにも、ちゃんと言わなくちゃ……


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