アロマな君に恋をして

健吾さんが去ってしまうと、聖堂内は静けさに包まれた。

私は改めて彼の方に向き直るのが怖くて、ずっと祭壇に背を向けていた。すると……



「――なずなさん、いつまでそっち見てるの?」



少し笑ったような、大好きな彼の声。

おずおずと振り向くと、ようやくその姿をきちんと捉えることができた。



「麦くん……」

「……どうして振っちゃったんですか? あんな素敵な人、なかなかいませんよ?」



彼は、さっき健吾さんが出て行った扉の方を見ながら言った。

……そんな質問、すごく意地悪。きっと理由はわかっているくせに。

だけど、一番悪いのは今までずっと素直になれなかった私だ……



「……忘れようとしたけど、できなかったの」



私は今まで押し込めていた感情を、ゆっくりと吐き出し始める。



「彼を好きになろうとしたけど、それもできなかった」



ずっと感じていた違和感……それは、自分が誰を求めているのか、本当はわかっていたから。



「あなたじゃなきゃだめなの……」



ああ……言えた。

言えるんだ、私にも。

ちゃんと言葉にする勇気が、やっと持てたんだ。


けれどそれ以上は、何も言えなくなってしまった。


また涙が溢れてきて、どんなに噛み殺そうとしても嗚咽が漏れてしまう。


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