アロマな君に恋をして

「健吾さんって本当に律儀よね……貴重品はともかく、衣類とか化粧品は黙って捨てちゃっても私文句言わなかったのに」


スーツケースを転がし部屋の端に移動させながらベッドで胡坐をかく麦くんに何気なくそう言うと、彼は相変わらず機嫌の悪そうな顔で私を手招きする。


「どうしたの?」


私がベッドのふちに浅く腰かけると、「遠い」と言って睨まれたので、仕方なく彼の側に行って正座をした。


「ずっと言おうと思ってたんだけどさ……“健吾さん”って何?」

「あ……ええと、そうだよね。もう仕事以外関係ないんだから、オーナー、よね」

「俺のいない間、どんくらい仲良くしてたの」


あ……やきもちだ。嬉しい。

少しだけ笑いそうになるのを堪えて、私は正直に言った。


「ごめんね……キス、した」

「それだけ?」


それだけ……では、ない、けど。言ったら怒るよね?


「…………うん」

「あ、今の間、怪しい!」


私の嘘なんてすぐに見抜いたらしい麦くんがそう言って私の手首を掴む。

何て言えばいいのかな……一線を越えたわけじゃないけど、越えてないからいいってわけでもないだろうし……


「ごめんなさい……」

「……したの?」

「してないよ……それは約束する」

「でも、身体は見られた……?」


悲しげな顔で問いかけられて、私は必死で思い返す。


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