アロマな君に恋をして
「なずなさん、何してるの?」
「うん、ちょっと芳香浴をしようと思って……」
自宅みたいにちゃんとした器具がなくても、マグカップとお湯があれば芳香浴はできる。
だから私は棚の上にあった電気ポットの電源を入れ、早速準備を始めたのだけれど……
「――今日は、だめ」
ベッドから降りてきた麦くんが、そう言ってポットのコードを抜いてしまった。
手に持っていたオイルの瓶も彼に奪われ、戸惑っていると何故かベッドに押し倒されていた。
「麦くん……?」
「さっきは……ごめん。なずなさんが徳永さんに何されたんだとしても、俺がちゃんと捕まえておかなかったのがいけなかったんだ。アユのことも、ごめん。でも信じて? 俺にはなずなさんだけだから……」
……そうだ。結婚式で言われていたじゃない。
もう、お互い意地張るのやめようって。
私も素直にならなくちゃ。もう二度と、あんなつらいすれ違いを引き起こさないためにも……
「私も……ごめんなさい。でも、どうして芳香浴しちゃだめなの……?」
「だって……」
麦くんがゆっくり、私の耳元に唇を寄せた。
「今日はなずなさんの“アロマ”に酔いしれたいから……」
濃密な吐息とともに囁かれたそんな台詞で、私の身体は一気に熱くなってしまった。
困ったように彼を見ると、麦くんはもう可愛い笑顔を封じ込め、セクシーな男の人の顔に変わっていた。