アロマな君に恋をして
“マンションにあるきみの私物はあとで彼氏のホテルに届けるから心配しないでいい。
それからきみの講師だったクレアだけど、来月から半年間東京でアロマとハーブの講座を始めることになっている。店の人員は一人増えたことだし、帰ったら緒方さんとよく相談してその講座に通うといい。
僕はもう少しロンドンに居てセリとゆっくり過ごすけど、カフェの件は積極的に考えるつもりでいるからしっかり勉強しておくように。
日本に戻ったら、仕事仲間としてよろしく頼む。
徳永”
朝方、私がまどろんでいると、麦くんが隣でそのメモを音読していた。
そして目が覚めた私に気付くと、優しく髪を撫でながら言う。
「やっぱり俺嫌いだなー、この人。協力してもらったことには感謝してるけど、協力と言うよりただ手のひらの上で踊らされたような感じなんだもん」
あの結婚式はすべてオーナーの仕組んだことであったと、昨夜のうちに麦くんから聞いていた。
話を聞いた後では、その解釈も確かに頷ける。
「……んー、強引で頭もよくて自信たっぷりだもんね。でも、根はいいひとだよ」
あくびをしながらそう言った私を、麦くんはぎゅっと自分の裸の胸に押し付けた。
「やだなぁ、なずなさん。前はあんなに徳永さんのこと嫌ってたのに」
「“嫌いじゃない”と“好き”は全然違うよ?」
……そう、私は今回のことでそのふたつには大きな隔たりがあることを知った。
たとえ傷ついているときでも、“嫌いじゃない人”を“好きな人”にするのは、不可能だったもの。
「そうかもしれないけど……」
まだ納得していない様子の彼を黙らせるために、私はその体に乗っかる。
そして驚く彼に構わず、自分から素早くキスを落とした。