アロマな君に恋をして
「この頃、疲れているはずなのに眠れなくて……」
本日最初のお客さんは、30代後半の男性だった。
本人は真顔のつもりなのだろうけど、眉間に刻まれた皺が彼の中にあるストレスの量を物語っている。
「どんな香りがお好みですか?男性の方は親しみやすい柑橘系、リラックスしやすい樹木系なんかを好まれますけど」
「そうだなぁ……」
私が接客している間に、チリン、と入り口のドアに付けられた鈴が鳴った。きっともう一人お客さんが来たのだろう。
店の奥から緒方さんが出てきて、対応をした。
「疲れに効くアロマが欲しいんです」
静かなお店だから接客中でもそのお客さんの声が聞こえて、私はそれがまた男の人のものだったから驚いた。
こんな短い時間に男性客が連続で来るなんて、珍しい。
私の接客したお客さんはとりあえずいくつかサンプルを持ち帰り、家でゆっくりどの香りがいいか決めたいということだった。
またいつでも相談に来てくださいね、とお辞儀をして店内に向き直ると、目の前に背の高い男の子が立っていたので私は驚いた。
なな、何……?