アロマな君に恋をして
――その時、バタン、と扉が閉まるような音がして、男の人の話し声が聞こえてきた。
「もう諦めたらどうなんだ?俺が女ならお前のことストーカーで訴えるぞ」
「店長の顔した女の人だったら怖くて話しかけるのも無理です」
「……ケンカ売ってんのか。顔が怖いからとこの間もナンパを失敗した俺に」
「まさか。そんな顔でも雑貨屋開いちゃうくらい可愛いもの好きでお茶目な性格ですもんね」
「ああ。ギャップ萌えってのは俺みたいな男にして欲しいもんだ」
……なんてくだらない会話なの。
だけど片方の声には聞き覚えがある。可愛い顔によく似合う、柔らかくて少し高めのトーン……
ちら、と後ろを振り返る。
すると笑いながら隣の男性と話していた彼がこちらに気付いて動きを止めたのが街灯の少ない明かりの下でもわかった。
どうしよう……急に逃げたくなってきた。
連れが居るのも予想外だったし、ここは少し距離のある今のうちに……
「なずなさん……」
「あ?ついに幻覚が見えるようになったのか?」
「違います!店長、あの人!なずなさん!!」
や、やばい。やっぱり逃げよう……!!
私はアスファルトを蹴り、全速力でその場を駆け出した。