アロマな君に恋をして

「はぁ、はぁ……っ」


しばらく走ったところで、私はたまたま近くにあった郵便ポストにもたれて呼吸を整えていた。

とりあえず、彼の姿は近くに見えない。諦めてくれたのかな……

こういう時、30を目前にしてすでに衰え始めた自分の身体が恨めしくなる。

数年前ならこんな距離走るくらいで息切れしなかったのに、もう苦しくて苦しくて……


「――オイ、女」


しばらく休んでいると、不意にドスの利いた野太い声が頭上から降ってきた。

見上げれば、オールバックの髪型に人相の悪い一重まぶたの男性が、私をものすごい形相で睨んでいた。

もももしかして、やくざさん……!?


「ご、ごめんなさいっ!!」


私はポストから飛びのき、姿勢を正してとりあえず頭を下げた。

悪いことをした覚えは全くないけど、長年の接客業からこういう人種には逆らわないでいるのが得策だと学んでいたから。


「……ビビるんじゃねーよ。俺は可愛いもの好きでお茶目なただの雑貨屋の店長だ」


お茶目って……一体どこをどう見れば、と心の中で突っ込みながら、はた、と思い当たる。

今のと似た台詞を、さっきどこかで聞いたような気が。


「……てんちょー、ダメです、逃げられちゃいました……って、あれ?」


近づいてくる影が誰のものだかわかった私は、観念して大きなため息をついた。

ああ、結局今日も彼に見せるのは疲れた顔になってしまった。

無理して走るんじゃなかった……


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