アロマな君に恋をして
「……どうして逃げたりした」
店長さんが、テレビドラマで殺人犯の取り調べをする捜査一課の刑事のように私に詰め寄る。
怖い人じゃないと理解した今でも、その迫力に怯えてしまって私は声が出ない。
「店長……なずなさんが怖がってます」
「ちっ……失礼な女だ」
全然お茶目じゃない舌打ちをして私の前から退いた店長さんの代わりに、麦くんが苦笑しながら私の目の前に立つ。
「ごめんなさい、なずなさん。でも、どうしてあそこに居たんですか?」
「あ……あの、お弁当箱……」
慌てて肩に下げていた鞄の中からあの手提げを探すけれど、一番奥にしまってあるからなかなか取り出せない。
もう、気まずいじゃない……!
「焦らなくていいですよ?」
「……うん、だけど……あ、あった!」
ようやく目当てのものを取り出し、彼の胸のあたりに押し付けるように差し出した。
「ちゃんと、洗ったから……」
「ありがとうございます。やっぱり、普通のお弁当箱にして正解でした」
「…………?」
私は彼の言葉の意味が解らなくて首を傾げる。
麦くんは、いたずらっ子のような微笑みを浮かべると手提げの上からお弁当箱を指さして言った。