アロマな君に恋をして
「……可愛いマンションね」
「でしょ?ちょっと家賃は高いんだけど、住む場所は妥協したくなかったんです」
話しながら共用のエントランスを抜けると、105と書かれた部屋の前で麦くんが鍵を出す。
その様子を見ていたら、自分がこれから若い男の子の独り暮らしの部屋にお邪魔しようとしているんだという事実が急に現実味を帯びてきた。
「散らかってるけどどうぞ」
ドアを開けたまま微笑む麦くんの細い瞳には、悪意も下心も全く見当たらない。
入って……大丈夫、よね?
ここへきて小さな不安に襲われた私だけれど、開かれたドアの向こうから漂う香りが、それを和らげてくれた。
「……ミントの香りがする」
「さすがなずなさん。俺、掃除するときに手作りの消臭スプレー使ってるんです。それにペパーミントの精油が入ってるから」
「手作り?……すごい」
感心している間に、扉は静かに閉まっていた。
爽やかな香り漂う廊下からリビングに着いた頃には警戒心もほとんどなくなっていて、私は親しい友達の家に遊びにきたような感覚で、勧められたソファに腰を下ろした。