アロマな君に恋をして
決して喜んでやったわけじゃない。
不本意中の不本意ではあったけれど、唇に触れそうな程箸が迫っていたからもう食べるしかないじゃない。
そう思いながらカブを咀嚼する私の顔はきっと不機嫌さが滲んでいるのに、麦くんは嬉しそうに私を見てる。
「美味しいですか?」
「……自分で食べないとよく味がわかりません」
「そっか……じゃあやっぱり箸持ってきます。一口目だけはどうしてもやりたかったんです、なずなさんにあーん」
あーん……だったのか、やっぱり今のは。
だけどどうして私にそうしたいと思ったのよ。
そこの所の一番大事な部分が見えないから、イマイチ彼を信用できない。
まぁ、いきなりその核心に触れられたらそれはそれで困るんだけど……
箸を渡されて、今度こそ普通に食べ始めた彼の手料理はなんだか懐かしい味がした。
もちろん、うちの母親が作るものと味は違うんだけど、レストランで食べるものとも違う……手料理独特の、あたたかい味わいがあった。
「そう言えば、私に足りない栄養素ってなんなの?」
すべての料理を残さず食べた後でもそれがわからなくて、私はキッチンで食後のお茶を入れる彼に尋ねた。
麦くんは微笑んだだけですぐには答えず、ガラスでできたティーカップを二人分をテーブルに置き、席に着くとようやく口を開いた。
「――心からくつろぐ時間」