アロマな君に恋をして
「……受け取ってもらえませんか?」
彼が急に頼りなげな表情になり、私を見つめる。
そんな風に言われたら断ることなんてできないじゃない……
「……も、もらおうかな」
「よかった!はい、どうぞ」
パッと表情を輝かせて私に紙袋を押し付けると、彼はこんなことを言う。
「あなたの名前を教えてもらえませんか?」
「名前?……ああ、それならここに」
エプロンの上に着けたスタッフ用のバッジを指差す私を見て、彼は首を横に振った。
「下の名前です」
「あぁ、下ね……って、なんであなたにそんなこと教えなくちゃならないの」
「ダメですか?」
「ダメっていうか……必要ないでしょう」
私みたいに乾いたアラサー女の名前なんか聞いて何しようっていうんだろう。
怪しい。何か買わされるとか?
……いや、買ってもらったのは私の方だ。欲しいと言った訳じゃないけど。
「……じゃ、また来ます!」
そう言って彼はにっこり笑った。
笑うと目がなくなるその顔は可愛いと認めざるを得ないけど……できればもう来ないで欲しい。
相手はお客さんなのでそう言うわけにもいかず、私は恨めしげにその後ろ姿を見送ることしかできなかった。